今年も2022年9月10日、11日、ZEN2.0が鎌倉建長寺で開催されました。昨年に引き続き登壇させていただきました。今年のテーマは「The Stories of Interbeing 〜すべての物語と共に生きる〜」。(HP:https://www.zen20.jp/ )光栄な事に今回で4回目の登壇になります。
振り返ると1回目は「禅とマインドフルネス」というテーマをもとに尺八を広めるために。2回目は「感じる身体、実践する心」のテーマで地無尺八を。昨年の3回目は古典尺八と環境を視点にしての僕なりの禅を。とにかく鎌倉から禅の楽器、尺八を知ってもらう事に努めてきました。今回のテーマは、あえて言えば共鳴をテーマです。そのお話は最後の方で。
話は変わりますが、今年のZEN2.0で、とても面白い対談がありました。ソーヤー海さんと藤野正寛さんの対談で、子育てのお話される中で、トラウマについてお話されていました。 子供に自分のトラウマを押し付けないというお話でした。自分が親にされた事、強制的に押し付けてしまう事を極力しないというお話です。
また、辻信一先生のお話では、星の王子様などを題材に時間についてお話されていました。無駄な時間ほど絆を深めるというようなお話だったかと思います。大人になり社会に出ると、この人は自分のビジネスにとって得になる人かどうかという視点で仲間づくりをしてしまう。毎年、早稲田大学に生き方について講義に行っていますが、大学生のうちから、そういう視点で付き合っている人も多いなと実感します。そうすると結果ばかり求めて、こうした無駄な時間で絆を育むという事を忘れがちになってしまう。関係性が結果を与えあえるかどうかというものになってしまい、結果がないと疎遠になってしまう。そのような感じでしょうか。
僕にとっては、ZEN2.0は無駄な時間なのか、十分に登壇者と雑談したり、今回は一緒にボディーワークなどをしながら楽しませていただきました。この雑談が本当に楽しいです。登壇させていただける楽しみに一つです。コロナという事もあり、今回、久しぶりのリアルでの開催。久しぶりにお会いできた登壇者、また新たに出会った方々に心から感謝しています。
さて、トラウマと時間のお話をしましたが、実は呼吸ワークにも同じことが言えます。僕のワークでは今回、意識的に呼吸をするのではなく、自然に伸縮する呼吸筋で呼吸をするワークを実施しました。息を苦しくなるまで吐き、止めて、自然に吸う。ただそれだけのワークです。これが、なかなか難しい。辻先生の話に繋がりますが、結果を出そうとすると、自然に収縮する身体の時間まで待つ事が出来ません。急須でお茶を入れる時、早くお茶を入れようと思うと、急須からお茶が溢れてしまう。そんな感覚に似ています。
そしてもう一つは、耳の使い方で呼吸が変わるというワークです。手を使って自分の耳の意識がどのくらいにあるのか。また、耳を閉じている時と開いている時、呼吸の違いを感じるか。最後に、手を広げて隣の人と軽く手を押し合います。どう呼吸が変わるか。心が萎縮してしまっている人ほど、耳の意識は自分の身体から近くなります。僕はというと24時間、2キロくらいまで空間を捉えるように努めています。(その修行のせいか、最近はイヤホンで音楽を聴くのが怖くなりました。)呼吸ワークにご興味ある方は自然呼吸法のページをご覧ください。自然呼吸法ワークショップ
そして、ワークの後、最後に尺八瞑想です。実は、僕はマインドフルネス、瞑想という言葉を安易に使うのは好きではありません。一人歩きして本質がなくなってしまうからです。ただ、今回は尺八が坐禅と同じくらい、内と外に意識が向けられる事を知って欲しくて、尺八瞑想という言葉を使いました。
僕の尺八はどんどん自然のままの内径になっており(外見もそうですが。)、楽器に頼らず、自然の呼吸のあり方だけで音を空間に届けるという事を日々、修行しています。また、口、喉、指先の至るところまで内観します。空間もなるべく遠くを意識します。演奏家は遠くでなっている自分の音の響きを聴き音作りをしますが、僕の尺八は、遠くの音を聴くことにより、自然音との調和をしています。自然音の方が大きく聴こえるくらいです。それをリラックスした状態で聴いていただく。聴こうと思う姿勢では、僕の身体性も音も伝わりませんから。確かタモリさんの言葉で、「料理人が緊張させる店は嫌い」というのがありました。食事はリラックスして食べるものなのに、頑固なラーメン屋や寿司屋で緊張させる店主は嫌いというお話でした。僕も同じです。かしこまって音楽を聴くのは性に合いません。できるだけリラックスして聴いてもらった方が、外の音にも耳を傾けてもらえると思っています。僕は内と外がいいバランスで。それは身体も心も同じく。どんどん深くどんどん広くなってもらえたら嬉しいと思っています。
最後に、今回、二日目のオープニングで尺八を演奏させて頂きました。自作の2m尺八「空洞(空道)」を演奏させて頂きましたが、これにはとても強い思いがあります。この楽器は竹の節を抜いて唄口だけを加工したシンプルな楽器です。指あなは一つ空けていますが、その程度です。それでも音色は10倍音くらいでます。僕達が加工しなくても、自然は既にそうした構造を持っています。中村桂子さん、桑原香苗さんの環境についての話でもありましたが、自然を守るといって、人が主の作り方をしても何も変わりません。自然の方が完全に強いのですから、共存ではない。僕もそう思います。自然に住まわせて頂いている。それを知って頂きたい。また、僕たちは伝統や歴史を知り、知識、情報を活用し、科学によって生存競争を勝ち残ってきました。しかし、それもまた時に、驕り、囚われ、志のような凝り固まったものが生まれ、生きにくく、国と国の壁も越えられず、貪る。これが、自然の心と言えるでしょうか。命はもちろん、僕たちは文化でさえ、消えてなくなる。忘れ去られる。それが美しい事を知ってほしい。新しいものが生まれるのだから。それが自然。そうした思いで、新たに作った空洞を演奏させて頂きました。
今回のテーマは共鳴と冒頭でお話しました。耳で遠くの空間を捉え、多くの自然、人の話を聞き、現代の生き方を学び、繋がる。少しでも尺八を通して伝えられれば幸いだと思っています。どうか思いが届きますように。
ZEN2.0はアーカイブとして2022年12月末まで見ることができます。(有料)僕の演奏も見る事が出来ますので、もしご興味ありましたら、ZEN2.0のサイトを見てみてください。(ZEN2.0HP)
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